猫の多発性嚢胞腎(PKD=Polycystic kidney disease)とは、腎臓に嚢胞(のうほう:液体が詰まっている袋状のもの)がたくさん出来る先天性腎疾患で、初期は無症状ですが嚢胞が大きくなり増えることで腎機能障害を起こしてしまう病気です。 今回は、多発性嚢胞腎(PKD)についてまとめてみました。 |
猫の多発性嚢胞腎(PKD)の原因
猫が多発性嚢胞腎(PKD)にならないための対策
猫の多発性嚢胞腎(PKD)の検査
猫の多発性嚢胞腎(PKD)の治療
まとめ
猫が多発性嚢胞腎(PKD)になった時の症状
猫の多発性嚢胞腎(PKD)は、ゆっくり少しずつ嚢胞が大きくなったり増えたりするため、初期の段階では症状がなく気づかないことが多いです。
腎機能低下は3歳頃から見られ、7~10歳の間に腎不全を発症する場合が多いようです。
症状が進行するにつれて腎臓の働きが低下するため、慢性腎臓病と症状がとても似ています。
下記のような症状が見られた場合は、多発性嚢胞腎(PKD)の他、腎臓に何らかの異常がある可能性がありますので、すぐに動物病院に行きましょう。
食欲不振、嘔吐
慢性腎臓病は高齢の猫が発症する場合が多いですが、多発性嚢胞腎(PKD)は比較的若い年齢で発症します。
症状は徐々に進行していき、食欲がなくなって痩せてきたり、嘔吐したりするようになります。
多飲多尿
水をたくさん飲みたくさん排尿します。
腎機能の低下により体内の老廃物が尿とともに排出されなくなるため、尿の臭いや色が薄くなります。
口臭がする、発熱する
症状がさらに悪化して「尿毒症」を発症すると、口臭が強くなったり便秘や脱水症状も見られるようになります。
嚢胞内に細菌感染を起こすと発熱し、ぐったりする場合があります。
腹部が膨らむ、腹痛
猫の多発性嚢胞腎(PKD)は、嚢胞が大きくなったり増えたりするため腎臓が劇的に大きくなります。
そのため、腹部がふくらんだり他の臓器などを圧迫して腹痛を起こします。
猫の多発性嚢胞腎(PKD)の原因
遺伝
猫の多発性嚢胞腎(PKD)は、染色体に含まれる遺伝子の変異が原因であると判明しています。
両親のうちどちらかが多発性嚢胞腎(PKD)を引き起こす遺伝子を持っていた場合、子猫に遺伝する確率は50%以上と言われており、両親ともに変異遺伝子を持っていてどちらからも変異遺伝子を引き継いだ場合、その子猫は母体内で死亡すると考えられています。
猫種では、ペルシャやペルシャの短毛種であるエキゾチックショートヘアなど、ペルシャと血縁関係にある猫に多く見られますが、近年ではアメリカンショートヘアやスコティッシュフォールド、雑種などにも存在することが判明しています。
1000頭に1頭の割合で多発性嚢胞腎(PKD)を持つ猫がいると言われています。
また、片方の腎臓にのみ発症する割合は5%程度と少なく、一般的には両方に発症する傾向があります。
突然変異
両親がともに多発性嚢胞腎(PKD)を持っていなくても、稀に遺伝子の突然変異により発症してしまう子もいるようです。
体内環境
嚢胞の形成は遺伝子のみですべて説明できません。
副甲状腺ホルモンや尿量を調節する作用を持つホルモン(バソプレシン)、酵素の活性を調節する物質(サイクリックAMP)、腸内細菌が生成する毒素など体内のいろいろな物質が複雑に絡み合っていると考えられています。
猫が多発性嚢胞腎(PKD)にならないための対策
猫の多発性嚢胞腎(PKD)は、遺伝が主な原因の病気であるため病気にならないために対策することは困難です。
両親のどちらかが多発性嚢胞腎(PKD)を持つ場合、子猫に遺伝する確率は50%以上であることから、多発性嚢胞腎(PKD)を持つ猫は交配させないことが一番の予防となります。
去勢や避妊手術は、成長の度合いによりますが生後6ヶ月頃から可能となりますので、特にペルシャやペルシャと血縁関係にある猫種を交配させたいと考えている方は遺伝子検査を受けてから判断されることをお勧めします。
猫の多発性嚢胞腎(PKD)の検査
身体検査
初期の段階では判断が難しいですが、ある程度進行している場合は腎臓が大きくなり嚢胞がいくつも出来ているため触診で判断できるようになります。
血液検査・尿検査
腎不全かどうかの判断は可能ですが、多発性嚢胞腎(PKD)が原因による腎不全であるかの判断はできません。
レントゲン検査
初期の段階では判断できませんが、ある程度進行している場合は腎臓が大きくなっていたり表面が嚢胞でボコボコになっているのが確認できます。
超音波(エコー)検査
生後6~8週頃の早い段階で嚢胞を確認することが出来、10ヶ月過ぎからは約95%の確率で正確な診断ができます。
CT検査
全身麻酔をして、レントゲン検査や超音波(エコー)検査より詳細な情報を得ることができます。
遺伝子診断
頬粘膜や血液を採取して専門の研究所へ送付することで遺伝子診断をすることが出来ます。
腎臓に出来た嚢胞が多発性嚢胞腎(PKD)によるものかどうかが確定できます。
猫の多発性嚢胞腎(PKD)の治療
猫の多発性嚢胞腎(PKD)は、初期の段階では症状が出ないため早期発見は難しいです。
また、現在のところ有効な治療法もなく、発症してしまうと完治できず一生付き合っていくことになります。
そのため、治療は腎機能の維持や病気の進行を遅らせる対症療法となります。
治療は動物病院によってさまざまで下記以外のものもあります。
詳しくはかかりつけの動物病院でご確認をおねがいします。
皮下輸液、点滴
皮下輸液は、腎機能が低下すると起こしやすくなる脱水症状の改善や血液中の腎毒性物質の量を低く保つのに有効です。
皮下輸液で脱水症状が改善しない場合は点滴治療をします。
腎臓食にする
猫が生きるためには必要な栄養素でも、腎機能を低下させるタンパク質やリンの配合が少ない腎臓食に切り替えます。
リン吸着剤
リンの濃度が高いと腎不全の症状が進行してしまいます。
リン吸着剤はリン濃度の上昇を抑え、嘔吐の症状を改善させます。
吐き気止め
腎機能が低下し腎毒性物質濃度が高くなると、胃潰瘍(いかいよう)や吐き気、嘔吐などの症状が出ます。
吐き気止めはそれらの症状を緩和するのに使用します。
血圧降下剤
高血圧は腎不全の進行を早めます。
血圧降下剤は血圧が高くならないようにし、腎不全の進行を遅らせる目的で使用します。
まとめ
猫の多発性嚢胞腎(PKD)は遺伝による原因が大きいため、特にペルシャやペルシャの血縁関係のある猫種(エキゾチックショートヘア、ヒマラヤンなど)を飼いたいとご検討されている方は、出来れば両親がどちらも多発性嚢胞腎(PKD)を持っていないことが確認できるブリーダーやペットショップから入手されることをお勧めします。
それが不可能な場合でも、早期に遺伝子検査をすることで愛猫が多発性嚢胞腎(PKD)を持っているかどうかがわかります。
早期に治療を始めることができれば、それだけ腎機能の低下を遅らせることができ長生きに繋がります。