猫の病気の中でかかりやすいもののなかに腎臓病があげられます。 その1つである腎不全には、腎臓に毒性のある薬品や食品を接取したことで発症する「急性腎不全」と腎臓が徐々に炎症を起こして機能が低下していく「慢性腎不全」があります。 今回は、猫の腎不全についてまとめてみました。 |
猫の急性腎不全について
猫の急性腎不全は、腎臓に毒性のあるユリやガソリンの不凍液(エチレングリコール)などを接取したり、尿路結石症(尿石症)によって排尿出来なくなったことが原因で急激に症状が現れる病気です。
この場合、点滴や血管透析によって原因である毒性の物質を排出すれば体調が回復する場合があります。
猫が慢性腎不全になった時の症状
腎臓には、体内の水分バランスの調整、ホルモンの産生、体内の老廃物を尿として排出するなど重要な役割があります。
腎不全は尿素窒素(BUN)とクレアチニン(CREA)の数値の上昇で判断します。
この数値によって初期の1、2ステージ~末期の4ステージと4段階に分けられています。
猫の慢性腎不全は、数ヶ月~数年かけて徐々に破壊されていくため初期に気づくことが難しく、症状が現れた時には腎臓の働きが75%以上破壊されている場合もよくあります。
9歳頃から発症することが多く、年齢の上昇とともに発症率も高まります。
多飲多尿
初期に見られる顕著な症状です。
この段階で腎臓の50~75%の機能が失われていると言われており、本来ならば尿と一緒に排出されるはずの老廃物が体内に残ったままになるため、たくさん排尿させようと水をたくさん飲むようになり、排尿の回数も増えます。
また、老廃物を排出する働きが悪くなるため、尿の色や濃さ、臭いが薄くなります。
食欲不振、嘔吐・脱水、軟便・下痢、体重減少
症状が進むと水をたくさん飲んでも多尿によって水分が失われ脱水症状を引き起こしたり、老廃物が体内に溜まって尿毒症を発症し、見た目も毛づやがなくなり痩せていきます。
また、体内に多くの老廃物が溜まっているため、口から独特の強いアンモニア臭がするようになります。
貧血、高血圧
腎臓には体内に必要なホルモンを作る働きもあります。
赤血球の産生を促進するホルモンが減少すると貧血になって倦怠感が出たり、血液中のカルシウム濃度を高めるホルモンが減少すると「副甲状腺機能亢進症(ふくこうじょうせんきのうこうしんしょう)」を引き起こします。
また、血圧の調節をしてるホルモンが減少すると高血圧になり、それに伴って「網膜剥離」や「眼底出血」「眼球破裂」などの目の症状が現れる場合があります。
体温低下、昏睡、痙攣
末期の状態では上記の症状がさらに進行し、ご飯を食べず、体温は低下し意識はほぼなく昏睡状態や痙攣を引き起こし、数日内に亡くなることもあります。
猫の慢性腎不全の原因
猫は、犬や人に比べ腎組織である「ネフロン」の数が少ないと言われています。
犬は約80万個、人は100万個以上に対して猫は約20万個です。
そして、猫は肉食動物で多くのタンパク質を摂取するため腎臓に負担がかかり、年齢とともに腎臓の働きが悪くなりやすいのです。
遺伝
アビシニアンとペルシャは先天性の腎臓異常(多発性嚢胞腎(PKD))である場合があり、慢性腎不全を発症しやすい猫種とされています。
基礎疾患
水腎症、糖尿病、間質性腎炎や腎盂腎炎といった腎疾患、腎硬化症、猫伝染性腹膜炎(FIP)や猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症)といったウイルス感染や細菌感染、腎臓の腫瘍などが原因となり腎不全が引き起こされることがあります。
また、電解質やミネラルの異常から腎臓が障害を受けたり、猫下部尿路疾患や猫尿路結石症(尿石症)などによる尿路閉鎖による急性腎不全から移行して引き起こされる場合もあります。
AMI
猫の腎臓では「AMI」と呼ばれるタンパク質が十分に機能していなく、慢性腎臓病と関りがある可能性が調査により報告されています。
歯肉口内炎
猫の祖先は水が少ない砂漠地帯に住んでいたとされており、もともとあまり水を飲まないことが影響しているという説や歯肉口内炎などによる感染が影響しているという説が考えられています。
猫が慢性腎不全にならないための対策
残念ながら、これと言った予防方法はなく、また一度機能を失った腎臓を回復させることは出来ません。
そのため、早期発見、早期治療をすることが一番の対策となります。
定期健診
腎臓病は尿検査、血液検査、超音波検査などで発見出来るため、7歳以上になったら1年に1回は尿検査や血液検査を受けるように心掛けましょう。
また、感染症にかからないように定期的なワクチン接種をしたり、原因となる疾患にならないよう予防しましょう。
水分を取るように工夫する
水飲み場の数を数か所設置したり、ドライフードだけではなく水分量の多いウェットフードを与えてみたり、普段から水分を取るように工夫してみましょう。
食事管理
おやつの与えすぎに気をつけ、年齢に合った食事を与えましょう。
また、人間の食事は塩分が多く猫の腎臓に負担を与えるため欲しがっても与えないように気をつけましょう。
猫の慢性腎不全の治療
一度破壊されてしまった腎臓の機能は回復させることができません。
そのため、治療は慢性腎不全の状態を悪化させないための対症療法が中心となります。
治療については、動物病院によって様々です。
詳しくはかかりつけの動物病院でご確認をお願いいたします。
食事療法
低タンパク質、低ナトリウムの食事療法です。
近年では腎不全に特化した療法食などもありますので、獣医師と相談の上行ってください。
投薬治療
腎臓の機能が低下したことにより産生される量が減ったホルモンの投薬、嘔吐が続いている場合は吐き気止めを投薬する治療が行われます。
皮下点滴
慢性腎不全が進行すると、必要な水分が不足し脱水症状や電解質のバランスが崩れるため、皮下点滴を背中あたりに入れます。
投与直後は背中のあたりがラクダのコブのように膨らみますが、1日かけて体内に吸収され、余った水分は尿として排出されます。
しかし、この治療は1日しか持たず通院が必要なため、仕事の都合で頻繁に通院することが難しい場合は自宅で飼い主が点滴することになります。
腹膜透析
腹部にチューブを挿して透析液を入れ、浸透圧で老廃物を引き寄せて流す治療です。
猫が腹部にチューブを入れたまま生活することになるため、感染症のリスクがあります。
また、チューブをいじらないようにエリザベスカラーを装着するため、猫に非常なストレスがかかります。
血管透析
人間の人工透析と同様のものですが、設備を持っている病院は少なく、費用も高額となるため継続して行うことは困難です。
腎臓移植
大学病院などで行っているところもありますが、ドナー猫の問題もあり日本ではあまりなじみがありません。
過去のデータでは、手術における死亡率が22.5~30%、6ヶ月生存率が59~65%、3年生存率が40~42%程度と推定されています。
まとめ
慢性腎不全は猫の様々な病気の中で1番発症しやすく、高齢の猫のほとんどが発症する病気です。
早期発見、早期治療が長生きすることに繋がりますので、日頃から猫の水分摂取量、トイレの回数や量を観察し、1年に1回は血液検査と尿検査を行うように心掛けましょう。